現代詩
毘売塚ひめづか 紺色の雲の端が朱色に炙られ 渦巻き身を捩る 遠い涯から冷たい風が (…不穏な… (…底の、獣を目覚めさせる… 空から剥がれ落ちた風が 砂浜を舐め続ける薄い波の舌先を 白く、まだ幼い足で踏みしめながら 水平線の先を睨み続ける少年は (…落ち…
地下茎 ここ、に この地下に溜まる 巨大な爆縮が持ち去った 触手の時代の空洞 あるいははじめからなかったもの 後退する凍土が置き去りにした湿地 涯からの響きに応えるのはこの地下に並ぶ灰色に膨れ上がる腹を抱えた箱舟の群暗い窓に浮かぶ口不ぞろいな歯に…
未明/境界 (…霧が、揺れ… 過飽和の空間から 凝り落ちるように 帆船が 帆の破れた 帆船が 何隻も 現れ (…風が、止み… 岩を舐めていた 薄い波が静かに逃げ 置き去りにされた 岩の上に 帆船が 座礁する 海岸を帆船が埋める 雪の処方箋 (暖淡堂書房) 作者:暖…
錘 横になり目を閉じると いろいろな音がここをつつんで 底を流れるやわらかな水に気付く 夜の錘 雪の処方箋 (暖淡堂書房) 作者:暖淡堂 Amazon 腐朽船群 (暖淡堂書房) 作者:暖淡堂 暖淡堂書房 Amazon 【現代詩】「錘」 力を抜くことで得られるものの 一つの…
未明/境界 (…霧が、揺れ… 過飽和の空間から 凝り落ちるように 帆船が 帆の破れた 帆船が 何隻も 現れ (…風が、止み… 岩を舐めていた 薄い波が静かに逃げ 置き去りにされた 岩の上に 帆船が 座礁する 海岸を帆船が埋める 雪の処方箋 (暖淡堂書房) 作者:暖…
坑 道 餓えた男達は、黒く硬い層を噛み砕き、食らいながら掘り進む。 もう何年も眠らずに掘り続けたが、満たされることはなく、不意に襲いかかる「希薄さ」に、頼りなく窒息してしまう。 (…とろりとした脂に満ちた坑道と… (…巨大なボタ山をいくつも残し… …
白 妙 山頂で、粉雪が 風に、なびいている 真っ青な山に映え かつて舞い降りた 若い女が 帰っていくようだ 雪の処方箋 (暖淡堂書房) 作者:暖淡堂 Amazon 腐朽船群 (暖淡堂書房) 作者:暖淡堂 暖淡堂書房 Amazon 【現代詩】「白 妙」 季節の変わり目の、高い空…
駅までのわずかな距離を… 駅までのわずかな距離を 歩ききることができない朝 僕を押しのけ 追い越していった人たちの顔が 今、僕を置き去りにした電車の窓を 稠密に埋めている 埃っぽい灰色の街に立ち尽くす僕は もし僕のこの身体を動かしてくれるのであれば…
坑 道 餓えた男達は、黒く硬い層を噛み砕き、食らいながら掘り進む。 もう何年も眠らずに掘り続けたが、満たされることはなく、不意に襲いかかる「希薄さ」に、頼りなく窒息してしまう。 (…とろりとした脂に満ちた坑道と… (…巨大なボタ山をいくつも残し… …
季 節 歩き、うろつき続けているといつの間にか、季節を追い越してしまうことがある僕の後を、涼しい風が追ってきていたふと足を止めた僕を追い越していったそれは、去年の秋の、においがした 雪の処方箋 (暖淡堂書房) 作者:暖淡堂 Amazon 腐朽船群 (暖淡堂…
推 進 機 機能が麻痺した夜 意図が熱を吐き始めたので底に沈めた 緩やかに忍び込み 不意に襲う激しい痛み 引き起こされる動揺と滑落 ほんの少し引き剥がされる残像と ここ、だと思っている痩せた身体との わずかの隙間に影に似た粘る液体が流れ込み 逆らいよ…
溶け残る街 (…足元の影が薄くずれる… (…きっと… (…ずっと 前に… (…「私」達は始めていた… 空間を切り分ける目盛りが わずかの気配に震え 濁りのない雨が凝り落ち (…膨張し… 地面を転がり 「底」からの微かな音に揺れる 臆病な「私」達を温かく濡らし窒…
接 触 ああ夕焼だここで立ち止まろう そうしたら 置き去りにして来たものが追いつくだろう たくさんのものが 赤い夕陽と一緒にここを満たすだろう 溢れさせるだろうその一瞬前に足を踏み出さなければ… 雪の処方箋 (暖淡堂書房) 作者:暖淡堂 Amazon 腐朽船群 …
夜 見 島 予感(…ぎっしりと詰まった白色の空間搾り出されるいくつもの黄色い目砂を重く詰め裏返し熱く濡れた冷たい夜 振動する石英の微粒子 降りはじめる雨 秋の日の 砂浜の 穴 衣服から滑り水に落ち溶ける救いのない獣の動き黒くぬるい底流された服に手が…
暖かく、湿った部屋 いつも誰かが起きている暗い部屋でじっと耳をすましているそして時々、泣いているもう眠ってもいいよこの暗がりは埋めるから 雪の処方箋 (暖淡堂書房) 作者:暖淡堂 Amazon 腐朽船群 (暖淡堂書房) 作者:暖淡堂 暖淡堂書房 Amazon 【現代詩…
重なる街 歩きなれたはずの歩道が不意に揺れる表面がふるふるとゼリーのように震えその下に、もっと硬い何かもっと古い何がが隠れていたことを僕に知らせるああ、ここ、にあったのか僕たちが恥ずかしげもなく厚く重ねてしまった埃だらけの層の下にそして僕が…
閉 塞 (…酵 枯れ、刃を、立て、る草 に埋、る湿、った、腿 灰色、の板、壁 覗き、込む、窓 北風、に雪、がれ 太陽、が擦、り上、げ 縮む 病室 冷たい床 天井を押し返す 膨らむ目 しかし 深く 眠る 部屋の底にある 夏の日の 葬儀 は 隣室で たくさんのささや…
蕎 麦 日本をほんの少しだけ離れる前にふと蕎麦が食べたくなった大盛りのせいろを食べながら面白いくらいに蕎麦をきれいに食べきることだけを考えていた僕はこの旅程を楽しんでいるのだそう確かに思った ***** 海外へ出張することが多かった頃。 出国手…
白 日 暑い日、どうでもいい書き物をしていると、あごの先から汗がまだ何も書いていない白紙の上にぽた、と落ちる、それを特に何を考えるでもなく指でなぞると、ゆらゆらと揺れるひとがたになる、それは、ぼうっとした白い光の満ちた空間に浮かぶひとがたに…
帰省/反復 玄関口に辿り着くと、鞄を持つ手に、再び力が入る 玄関を開けると、また新たに旅立つ 両親に迎え入れられ、孫の成長を喜ぶ声を聞く すっかり小さくなってしまった家具や 両親の姿を見ながら、用意されていた食卓に着く 杯を手にとりながら、一年…
展 開 1 表面を移動するものは波である。波とは強度の粗密である。 近傍領域の記述の試み。微かな光を放つものが埋める白色空間。空間にはじき出されるようにして浮かぶ微小の滴。滴の表面を波が進行する。波は勢いを増しながら比重の不均一な面を走る。先…
風邪 今月は一生懸命働いた出張も何度もしたし小言も言われた(誤解なのになあ…)ああ、そろそろ風邪ひこう ***** 自分のための方便というものもあります。 雪の処方箋 (暖淡堂書房) 作者:暖淡堂 Amazon 腐朽船群 (暖淡堂書房) 作者:暖淡堂 暖淡堂書房 …
底流 最先端が 一番初めに折れる 流行したものが 数年して振り返れば 色あせたものになる すでに、今、古く 誰も振り返らないようなものが 何年たっても 変らすに ずっと光っている それが この浮ついた世の中を 〝底〟で 支えている ***** 新しくもな…
男鹿線 かたん かたん と走る 列車の中に どこからか 晩秋の北国の 冷たい風 と、通路をはさんだ 向かいの座席に ぽつんと一人 制服の少女 きっと さっきまで にぎやかに おしゃべりをしていた その 一人 本を読む 一人旅の僕に その声は 遠く 聞こえていた …
霜 月 …穢す目よ… 青く 凍り、つく 古代 建築、 群の、 下 沸き、 上がる 釘、 の、肌 噛み、砕き、 界、朽ち、 裏、に 零れ 落ちた 「私、 達」の 「私」 …穢す目よ… 砂 「皮」 肌 裂き 噴き 散る 、血 静、寂、 に、舞い (…その、痛みに… 声、が 産、声 …
隙 身体が動くと、意識が遅れる 意識が身体の中に拡がろうとしても 浸透しきれない、暗闇が阻み 身体はまた、意識を置き去りにする どうしても埋めきれない隙間に ヌルい湿気が満ち、震えている それは涙でも、臓器でもなく 幼い笑い声、あの、春の日の 雪の…
層 音 界 白色層音。果たされない今(時間発展する純粋過去)、あるいは宙吊りの、不定形な平面の群。意識(またはその対象となるもの)は、どのようなかたちであれ、その一部分でしかない(だから、語られない(ことにより示される)真空領域の問題でもある…
何事もなく 大事なことがあるような顔が出来なくて 混み合った電車に乗り込むのに なんとなく気おくれがしてしまう それでもなんとか乗り継いで 人を押しのけるようにして出勤する人の 背中を見ていると 向かう先に大事なものがあるのではなく その、ふりが…
何処 一夜 星を見上げながら屈みこみ 吹き続ける冷たい風に耐え 遠くで木を打つ音を聞く 未明 ふと周りを見渡し ここ、はどこかと不安になる 僕はどこに屈みこんでいたのだ 誰も教えてくれない だから 立ち上がり また、歩き始めても 行き先は 誰にも言わな…
巡 回 夜の工場では眠れない どれほど多く 湿った物影があっても どれもが大きすぎ 間隙を すぐに生温かい 獣の息が満たすので しかし眠れない夜 迷い込むのは 遠い工場 なつかしく 影が揺れ スチームが 雲のように流れ 地面には 大きな穴がいくつも あいて…