地下茎
ここ、に
この地下に溜まる
巨大な爆縮が持ち去った
触手の時代の空洞
あるいははじめからなかったもの
後退する凍土が置き去りにした湿地
涯からの響きに応えるのはこの地下に並ぶ灰色に膨れ上がる腹を抱えた箱舟の群暗い窓に浮かぶ口不ぞろいな歯に肺が潰れもう息を吸い込むことの出来ないがための窒息する叫び
北の、西の、南の、東の
炭鉱を、灰色の男達が、女達が取り囲み
赤い提灯を掲げて、回り始める
とろけるようにゆがむ遠い涯に陽が落ち
水から上がったばかりの月が光を滴らせると
男達が提灯の火を互いの背に押し付け
腐臭を漏らす
女達が下腹に零れ落ちる塊を
乳飲み子のようにあやす
その時、不意に燃え上がる駅舎
響き渡る呱々の声
北の地の、いくつもの坑道口から噴出す炎
そのなかでのたうつ
地下茎
絡まりあう紐帯
激しい風が呼び込まれ
影が、赤い光の中に消える、と
(…忍び込む、涯…
「私」は地下の腐葉土の層に取り残される
腐り、溶け、
崩れる夢をみながら
そして、遠い古代の女の胸で
勾玉が毀れる
【現代詩】「地下茎」
深い地底で醗酵する古代の遺物のイメージ
現代詩の試み
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