安心感の研究 by 暖淡堂

穏やかに日々を送るための試みの記録

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父母から聞かされたこと 友だちが一人、いなくなるということ 【沙河36】

北海道砂川で過ごした昭和の日々

  

不安に過ごした夜が明けました。

父母の会話で、大体の事情は分かりましたが、はっきりと聞いたのはその日の夜のことでした。

そのとき、どのように感じたのかは覚えていません。

ただ、うまく説明のできない無力感があったように思います。

  

【沙河】昭和五一年~昭和五二年 (十六)③

  

 朝食を食べていると、父と母が小声で話していた。

「きっと、川に行ったんだろうって」

「下の子も、一緒らしい」

 そんなことをいっていた。

 教室での朝の会に、西森先生は少し遅れて来た。

 何か心配事があるような顔をしていた。それでも先生は普段通りに授業を始めた。

 朝はとても寒かった。通学路の脇の雑草が、霜で白くなっていた。それが、帰る頃にはすっかり暖かくなっていた。

 私は、帰り道、灌漑溝の橋のところでふと立ち止まった。

 道路脇の草むらが、風で揺れた。

 風がクルクルと渦巻いて、そのまま空に昇って行った。

 

 父が、いつもより少し遅く帰って来た。疲れているようだった。

「やっぱり、川だったな」

 そう母にいっていた。

「二人一緒だったそうだ」

「確か、同級生だったかね」

 それからすぐに家族そろって晩ごはんを食べた。父はいつものように、お酒を少しだけ飲んでいた。私の膝の上には、子猫が丸まって寝ていた。

 晩ごはんを食べながら、母は私と妹に教えてくれた。

「沢井さんのおばさんと、下の女の子が亡くなったんだよ」

 昼間、石狩川の畔で二人が見つかったそうだった。二人はお互いの手首をしっかり紐で結び合わせていたらしい。それで、自殺だと思われるということだ。

 何を考えていいのか、わからなかった。

 ただ、灌漑溝にかかる橋の風景を思い出していた。

 そして、きっと、とても寒かったろうと思った。

 それだけで、僕は精いっぱいだった。

「沢井さんの奥さん、最近ノイローゼ気味だったらしいってさ。下の子としか話をしていなかったらしいよ。それで家を出る時に連れて行ったみたいで」

 母が父に、そんなことを言っていた。

 私は最近、沢井さんと会っていなかった。

 最後に会ったのはいつだったのか、思い出そうとした。

    

「沙河」(暖淡堂書房)から

 

   

*☺☺☺☺☺*

    

この後、通夜に行きました。その辺りはまた次回。

なぜか子供は自分だけでした。

その理由は今でも分かりません。

  

父母から聞かされたこと

友だちが一人、いなくなるということ 【沙河36】

 

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dantandho

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