安心感の研究 by 暖淡堂

穏やかに日々を送るための試みの記録

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小学生の頃に起こった、とても寂しく、悲しい出来事のこと 【沙河35】

北海道砂川で過ごした昭和の日々

  

小学生の頃の、一番悲しい出来事です。

今でも時々思い出したりします。

のんびりとした田舎でしたが、事件といってもいいようなことも起こりました。

  

【沙河】昭和五一年~昭和五二年 (十六)①

  

 通学に使っていた道路は、車がほとんど走っていなかった。私は、縦笛を吹いたり、本を読んだりしながら歩いて帰った。

 ある日の放課後、川田君や西森君と学校の玄関で別れた後、家への道を一人で歩いていた。稲穂が実り、風に揺れて乾いた音を立てていた。風は頬に冷たく感じられた。

 灌漑溝に架けられた鉄筋コンクリート製の橋の手前で、沢井さんと会った。学年が同じで、家も近かったが、普段はあまり話さない。

 僕は本を読みながら歩いていたので、近づくまで沢井さんに気がつかなかった。

「本が好きなんだ」

 私はその時、学校の図書室で借りた児童用のサイエンスフィクションを読んでいた。

 シリーズ本で、私はそれを全巻繰り返し読んでいた。どれも面白かった。

「私は、歩きながらは読まないよ」

 私は本をカバンに入れ、一緒に歩きはじめた。

「灌漑溝、水が多かったね」

 沢井さんは灌漑溝を流れる水を見ていたようだった。

「橋の上から流れる水を見ていると、橋の方が動いているように感じるよね。まるで船に乗っているみたい」

 沢井さんはそんなことをいった。

「この間、大雨の時、この灌漑溝で馬がおぼれて死んだんだって」

 私も、大人たちが話しているのを聞いた。灌漑溝の幅は広く、深さもあり、雨が降ると水かさが増した。天気が悪い時は、灌漑溝には近づくなとよくいわれた。

 この間の大雨の時は、馬のように大きな生き物でも流されてしまうくらい、水が多く、流れは激しかったのだろう。

 私は祖父の葬式の夜を思い出していた。蒸し暑い夜だった。蚊に刺された手がまた痒くなったように感じた。

 僕の家の方が学校に近かった。

 沢井さんは、別の道を通って帰ると、もっと早く帰れるはずだ。その日は遠回りしていたようだった。

 僕の家の前で別れて、沢井さんは時々振り返って手を振りながら帰って行った。

 三つ編みの髪に白いリボンが巻かれていた。

 それが、揺れていた。  

  

「沙河」(暖淡堂書房)から

 

   

*☺☺☺☺☺*

    

関連する記事に登場する人物(友人たち)は仮名にしています。

また、出来事の詳細を伏せている部分もあります。

  

小学生の頃に起こった、とても寂しく、悲しい出来事のこと 【沙河35】

 

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