近所の大人たちが夜遅くまで、外で何かを探しているようでした。
呼びかけるような声が、寝ている僕にもずっと聞こえていました。
なにが起こっていたのかは知らされていませんでした。
いつもと違う、とても不安な夜でした。
【沙河】昭和五一年~昭和五二年 (十六)②
それからは沢井さんと一緒に帰ることはなかった。
小学校に入学してから、一度も同じクラスになったことがないので、学校では遊んだこともなかった。時々は、帰り道で、僕のずっと前を歩いているのを見ることもあった。だけど沢井さんは僕には気づかず、僕も追いついて話しかけることもなかった。
その年は、秋が来ると、急に気温が下がった。時々、霜が降りるくらいに寒くなった。居間ではストーブを点けることも時々あった。
夜、電話が鳴った。
母が電話に出て、少し話をしていた。それから父にかわった。
私と妹はテレビを観ていた。少し前に妹が拾ってきた子猫が、居間を走り回って遊んでいた。子猫を拾って来た時、私は元のところに置いて来いといった。飼っている猫が家にはいたのだ。妹は泣きながら、祖母と話していた。
結局、子猫は家で飼うことになった。家にいた猫とは、喧嘩をすることなく、仲良くしているようだった。その子猫は、家にいた猫とも、家族の誰とも、すぐに馴染んだ。
私は、子猫を置いて来いといったことを、少し後悔した。
父が身支度をして出かけた。それからしばらくして、近所のおじさんたちが大きな声を出して外を歩き回り始めた。
おーい、おーいと呼び掛けていた。
寒くなると、よく田んぼの畦道で古タイヤを燃やした。煙で空気を暖めて、霜が降りにくくするのだ。そんなとき、大人たちは近所の人に呼び掛けて歩く。
きっと、そのために父も歩き回っているのだ。
今夜も寒くなりそうだからだろう。そう思いながら、私は布団に入っていた。
大人たちの声は、一晩中聞こえていた。
「沙河」(暖淡堂書房)から
*☺☺☺☺☺*
翌朝、子供たちにもそれとなく出来事について知らされました。
そのときになにを感じたのか、正確には思い出せません。
どうしようもなく、とまどっていたのだろうとは思います。
夜中聞こえていた遠い声 暗い中での捜索 【沙河36】
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