安心感の研究 by 暖淡堂

穏やかに日々を送るための試みの記録

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夜中聞こえていた遠い声 暗い中での捜索 【沙河36】

北海道砂川で過ごした昭和の日々

  

近所の大人たちが夜遅くまで、外で何かを探しているようでした。

呼びかけるような声が、寝ている僕にもずっと聞こえていました。

なにが起こっていたのかは知らされていませんでした。

いつもと違う、とても不安な夜でした。

  

【沙河】昭和五一年~昭和五二年 (十六)②

  

 それからは沢井さんと一緒に帰ることはなかった。

 小学校に入学してから、一度も同じクラスになったことがないので、学校では遊んだこともなかった。時々は、帰り道で、僕のずっと前を歩いているのを見ることもあった。だけど沢井さんは僕には気づかず、僕も追いついて話しかけることもなかった。

 その年は、秋が来ると、急に気温が下がった。時々、霜が降りるくらいに寒くなった。居間ではストーブを点けることも時々あった。

 夜、電話が鳴った。

 母が電話に出て、少し話をしていた。それから父にかわった。

 私と妹はテレビを観ていた。少し前に妹が拾ってきた子猫が、居間を走り回って遊んでいた。子猫を拾って来た時、私は元のところに置いて来いといった。飼っている猫が家にはいたのだ。妹は泣きながら、祖母と話していた。

 結局、子猫は家で飼うことになった。家にいた猫とは、喧嘩をすることなく、仲良くしているようだった。その子猫は、家にいた猫とも、家族の誰とも、すぐに馴染んだ。

 私は、子猫を置いて来いといったことを、少し後悔した。

 父が身支度をして出かけた。それからしばらくして、近所のおじさんたちが大きな声を出して外を歩き回り始めた。

 おーい、おーいと呼び掛けていた。

 寒くなると、よく田んぼの畦道で古タイヤを燃やした。煙で空気を暖めて、霜が降りにくくするのだ。そんなとき、大人たちは近所の人に呼び掛けて歩く。

 きっと、そのために父も歩き回っているのだ。

 今夜も寒くなりそうだからだろう。そう思いながら、私は布団に入っていた。

 大人たちの声は、一晩中聞こえていた。

  

「沙河」(暖淡堂書房)から

 

   

*☺☺☺☺☺*

    

  

翌朝、子供たちにもそれとなく出来事について知らされました。

そのときになにを感じたのか、正確には思い出せません。

どうしようもなく、とまどっていたのだろうとは思います。

  

夜中聞こえていた遠い声 暗い中での捜索 【沙河36】

 

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dantandho

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