幼稚園になかなか通えないことに対し、両親、祖父母と幼稚園の先生方との間で時々は相談されていたのでしょう。
幼稚園行事に関するお知らせは家に届いていたようです。
ある日の朝、母は僕に、いつもよりちょっとだけいい服を着せました。
状況に戸惑う僕を残して、母はそのまま仕事に出かけました。
それから祖母が僕を家の外に連れ出しました。
家族の連携プレーだったようです。
気がついたときには、僕は幼稚園にいて、知らない子供たちに囲まれていました。
【沙河】昭和四〇年~昭和五〇年 (九)②
ある明るい夏の日、私は祖母に連れられて幼稚園に行った。
正しくは、出かけて行った先が幼稚園だった。私は騙されるようにして連れて行かれた。
幼稚園にはたくさんの子供たちがいた。皆、揃いの服を着ていた。
私は普段よりも少しだけきれいな服を着せられていた。長袖の小豆色のシャツを着て、コール天のズボンをはいていた。ズボンの膝には巨人の星のパッチが貼り付けられていた。
幼稚園には子供だけではなく、大人もたくさん集まっていて、にぎやかだった。その日は幼稚園の運動会だったのだ。
家に幼稚園から連絡が来ていたのだろう。両親や祖母が相談して、私を幼稚園に連れて行くことにしたようだ。
幼稚園の運動場の周りには、背の高い雑草が茂っていた。
運動場の中では大勢の子供たちが動き回っていて、埃が舞い上がっていた。
幼稚園の先生が私の所に来た。私はしり込みした。祖母の陰に隠れた。
先生は私を他の子供たちと会わせようとした。私は嫌がって、動かなかった。
無理に連れて行こうとはせずに、代わりに数人の子供を呼んだ。
彼らはすぐに来た。そして見慣れない私に関心を示した。
どうして自分たちのような揃いの運動着を着ていないのか、普段は幼稚園に来ないのか、など、色々と質問された。今日はどうして来たのか、とも聞かれた。
そのどれへも私は答えなかった。祖母の後ろに隠れ続けた。
私は名前を聞かれても答えなかった。
そのうち、子供たちは私への関心を失い、離れていった。
「沙河」(暖淡堂書房)から
*☺☺☺☺☺*
生まれて初めて、たくさんの、自分と同じ年頃の子供たちに囲まれてしまいました。
ただただ困惑していました。
そして、とても不安でした。
幼稚園に連れて行かれた時のこと、運動会への参加
【沙河18】
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