安心感の研究 by 暖淡堂

穏やかに日々を送るための試みの記録

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【現代詩】「律 動」 存在しないものを際立たせる境界のイメージ 現代詩の試み

律 動

 

 

すべてはすべてのものになりうる、それはたんに可能性の問題ではなく、すべてのものがすでにそうであるという意味である。個体を分かつものは「境界」という想定された変化域であり、それで仕切られた領域の周囲には強度のグラデーションがみられ、その変化は急激である。それはだから連続的なものだ、男は石と中空の缶と機械に、女は子供と犬のような獣と根と機械に、子供は母親と柔かな機械になりうる、それらはすべてリズムを持った方向であり太さを有するベクトルであり、またその場で跳躍を続ける点である、すべてのものはそのリズムで呼吸する。

 

鴉を見よ、鴉は暗い闇の中で規則正しく鳴きながら、その場で跳躍しているのだ。鴉はだから猫になりうる、あの真っ黒な目が反復するのだ、裏返しにされた内蔵に突き立てた嘴から猫の中に分け入り猫になるのだ。子供は同じように母親になる、裏返された子宮で母親を温かく包むのだ、それは母親に対する深い憐情の叫びである。影は立ち上がり主と常に入れ替わり続けている、ふと地面から空を見上げているのに気がつく時がある、その時影に踏まれた自分自身を見い出すのである、しかし、脱ぎ捨てて逃げたのは、誰だ…

 

船は何人もの人を運び、港で吐き出して黙りこんでいる、貪欲な機械だ、平らな水面を波立て、切り裂き、人を飲んでは吐く、船は、不安だ、手に触れることなく水面の冷たさを感じさせる、上陸することのない島影を見せる、気紛れにその島に近づいたりする、島の原住民を太い汽笛で脅して見せたりする。乗客はその光景一つひとつに怯える。それに耐えてようやく港にたどりつくと、振り返る客達にその巨大な黒い船体を見せる、しかしそれは抜け殻だ、時折ぎしぎしと音をたててここにいるぞと脅している、その側で見ている黒い帽子の怯えた目をした男は誰だ、犬のように人の目の色をうかがう、逃げ腰の男は誰なんだ、なぜ油のような血が港に浮かんでいる。

 

 

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【現代詩】「律 動」

存在しないものを際立たせる境界のイメージ

現代詩の試み

 

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