桟橋
…静かに…
雨に濡れる桟橋の先で
溢れようとする海に何冊かの本を沈めると
水の底から
古い写真が一枚
ゆらりと浮び上がり
冷たい風が
高い空から剥がれ落ち
ふと 遠くから呼ばれた気がして振り返った
あの日の
(…いつも ここ にある…
灰色の浜辺に置き去りにされた少年が
そっと 模型の船を置き
波の先で泡立つ砂の
さりさりという音
引く波の唇がめくれて鳴る
ふるふるという音
波打ち際に
透明な塊がいくつも打ち上げられ
また 波にさらわれ
小さな駅のプラットホームで
柔らかな殻を溶かし広がろうとする
一つの朝に少年は背を向け
信じていなければ
消えてしまいそうだった汽車の
重く冷たい扉を押し開け
暗い座席の窓に額を押し当てる
と 視野が 揺れ
ニスとタールと埃の匂
垢と膏薬と樟脳の匂
もう薄暗く暮れていく空で
霙が 溶け
…流れ…
*****
最後の舟がここを離れてから、時間はそれほど経っていないのに。
もう季節はいくつも通り過ぎていってしまったみたいだ。
季節は必ず冬で終わる。
そして、まったく新しい四季が、冬の下から湧き上がってくる。
それがとても前の四季に似ているので。
人々は同じように春が来ると思ってしまう。
異なることを。
恐れているかのように。
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【現代詩】「桟橋」
誰も戻らない場所が確かにあるということ 現代詩の試み
旅立つ場所、帰り着く場所。
そこに時間や空間や思いのずれ、窪みなどが生じるように感じています。
そのずれ、窪みのようなものが表現できないか、考え続けていた時期に書きました。
またお立ち寄りください。
どうぞご贔屓に。
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