安心感の研究 by 暖淡堂

穏やかに日々を送るための試みの記録

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祖父の葬儀、とても寂しそうだった祖母の様子 【沙河27】

北海道砂川市で過ごした昭和

  

夜中のうちに祖父の遺体は家に運ばれていました。

座敷に敷かれた布団の中に横たえられていましたが、なんだか知っている祖父よりもずっと小さく見えました。

なにかが抜け出て、しぼんでしまっているようでした。

 

朝からよい天気だったことを覚えています。

祖母は祖父の枕元に静かに座っていました。

祖母もまた、いつもよりもずいぶんと小さくなっているように見えました。

  

【沙河】昭和五一年~昭和五二年 (十三)②

  

 目を覚ますと、聞き慣れた声が聞こえた。向かいの家のおじさんが電話で何か話しているようだった。母が起こしに来て、祖父の葬式の段取りを簡単に説明してくれた。

 着替えて、階下に下りると、近所のおじさんやおばさんが何人か来ていた。

 仏間に布団が敷かれていて、湯潅を済まされた祖父が寝かされていた。布団が上下逆さまにされ、北枕になるように敷かれていた。頭の先に仏壇があった。顔の上には白い布がかけられていた。

 布団の上には剃刀が置かれていた。

 猫が近づかないようにするためだという。

 猫は、人が死ぬと化けて憑りつくそうだ。

 我が家の猫は人に慣れていた。その日も、人が集まっているところに出てきて、毛繕いをし始めた。それを大人の誰かが家の外に出した。

 猫は何度か部屋の中に入りこんだが、その度に追い出された。それを猫は遊んでもらえていると思うのだろう、抱き上げられると嬉しそうに喉を鳴らした。

 祖母が枕元に座っていた。背を丸めていたので、いつもより大分小さく見えた。

 仏壇には花や灯篭が飾られていて、線香の煙が揺れていた。

「線香を切らさないように見ていなさい」

 電話で親戚に葬儀の連絡をしていたおじさんが、一休みしている間にいってくれた。電話での連絡はまだ終わらないらしかった。

 居場所が見つからなかった私と妹は、仏壇の側の、祖母の近くに座った。そして線香が燃え尽きそうになると、新しい線香に火をつけて立てた。

 空は曇っていた。天気がどんどん悪くなってきているようだった。

 仏間の中は普段よりもずっと薄暗かった。 

  

「沙河」(暖淡堂書房)から

 

   

*☺☺☺☺☺*

    

布団の上にカミソリを置く習慣は、他の家ではあまり見たことがありません。

猫を飼っている家だけのものかもしれません。

  

祖父の葬儀、とても寂しそうだった祖母の様子

【沙河27】

 

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dantandho

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