その日、幼稚園に連れ出されましたが、他の子供たちとのファーストコンタクトはうまくいきませんでした。
それでも、すぐに帰ることはできず、始まった運動会とは距離をとりながらそこにいました。
幼稚園の先生の提案だったのでしょうか。
気づけば徒競走に参加していました。
うまく巻き込まれた感じです。
【沙河】昭和四〇年~昭和五〇年 (九)③
運動会が始まった。
私は少し離れた所で子供たちが走り回っているのを見たり、土いじりをしたりして過ごしていた。早く家に帰りたいと、ずっと考えていた。
祖母がふと、私の手を取り、立ち上がった。そのまま手を引き、歩きだした。
私は家に帰れるのだと期待して、ついて行った。
祖母は先生に帰ることを告げるのだろう、と思った。
子供たちが整列している後ろに立っていた先生の所に近づいた。
祖母は手を離した。そして私をそこに置き去りにしたまま、運動場の向こう端に歩いて行った。
祖母がどんどん遠ざかる。私は慌てた。
先生は、私を他の子供たちの列の中に並ばせた。揃いの運動着を着ていない私は、とても浮き上がって見えていただろう。
祖母は遠くで振り返り、私の方を見ていた。子供たちが一斉に走り出すと、先生は私の背を押した。
私は駆け出した。子供たちの一番後ろをついて行く形になった。
短い距離の徒競走だった。走り切ると、小さな景品を貰えた。
その後、閉会式を待つこともなく、祖母と私は帰った。私は祖母に甘え、時々背負われながら、ゆっくりと歩いて帰った。
夏空にはまだ高く太陽がかかっていた。
「沙河」(暖淡堂書房)から
*☺☺☺☺☺*
自分がその運動会を楽しんだのかどうか、覚えていません。
その幼稚園での運動会のことを思い出そうとすると、まず綺麗な夏空が思い浮かびます。
そろそろお正月なのですけどね。
幼稚園の運動会で、
知らないうちに徒競走に参加していたこと
【沙河19】
またお立ち寄りください。
どうぞご贔屓に。
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