安心感の研究 by 暖淡堂

穏やかに日々を送るための試みの記録

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お通夜での食事と、そこで話されたこと 鳴家のこと 【沙河29】

北海道砂川で過ごした昭和の日々

  

祖父が亡くなったときに起こった不思議なことが、今でも実家の家族の話題になります。

特に鳴家やなり に関しては「実例」のようなものが家族内で共有されています。

 

「誰々が亡くなったときには」、「どこそこのおばさんが危篤になったときには」など、いくつかのエピソードがあって。

法事で集まった際には一通り話の内容が再確認されます。

  

【沙河】昭和五一年~昭和五二年 (十四)②

  

 夕食が出た。お酒を飲みながら、大人たちが話をしていた。

「背中に、何か重たいものが乗ってきたような感じがしたのさ」

 父が親戚の人たちに話していた。母の実家の祖父母を車で送っていた時のことのようだ。

 不動坂という長い坂を車で上っていた時のことらしい。

「なんだか、急にしんどくなってきてさあ。急に肩に重たいものが乗って来たような気がして。変だなあって思ったのさ。だけど、何だかよくわからなくってさあ。バックミラーが気になったんだ。でも何にも見えないし」

「父さんが帰ってくる前、家で大きな音がしたんだよ」

 私は父と母にそう教えてあげた。

「祖父ちゃんが、順番に回っていたのかもねえ」

 親戚のおばさんがそういった。

 

 通夜の夜、家族は皆お寺に泊まった。庫裡に薄い布団を並べて横になった。

 父と従兄は、お酒を飲みながら徹夜して、交代で蝋燭や線香を灯し続けた。

 雨は一晩中降り続け、強い風も吹いていた。

 朝になると、右手の掌が腫れていた。蚊がいたらしい。痒かったけど薬はなかった。掻かないように我慢していた。

 起きた人から順番に朝食をとった。私は妹や従弟と一緒に、忙しく動き続ける大人たちの邪魔にならないように、お寺の中を見て歩いたり、本を読んだりして時間をつぶした。

 祭壇は本堂に作り直された。通夜の時よりも大きくなっていた。祖父の棺桶は少し高い所に置かれた。

 花や灯篭の数が増えていた。果物籠がいくつか置かれていて、桃の実の匂いがしていた。

 近所の人が、祖父の戒名の話をしていた。立派な戒名だというのだ。偉い人だったからねえともいっていた。

 その時、戒名はお金で買うのだということを知った。立派な戒名は高いそうだ。 

  

「沙河」(暖淡堂書房)から

 

   

*☺☺☺☺☺*

    

人は死ぬと同時に出家して、さらに成仏するという仕組みをこのとき初めて知りました。

理解はできなかったと思います。

「戒名」の「値段」というのも、大人の事情みたいなものだと、今であれば理解することができますが。

  

お通夜での食事と、そこで話されたこと 鳴家のこと

【沙河29】

 

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