こんにちは、暖淡堂です。
極私的京極祭、昨年中では終わりませんでした。
12月に北海道砂川市に帰省していた間は「陰摩羅鬼の瑕」をずっと読んでいました。
自宅に帰って手に取ったのがこの「百器徒然袋 風」です。
「百器徒然袋 風」は2004年7月5日に第一刷発行。
探偵榎木津礼二郎を主役とした三作品が収められています。
ここで、この三作品を「短編」と書こうか「中編」と書こうかちょっと迷いました。
分量的には「長編」としてもおかしくないくらいなのです。
まあ、そのあたりは、決めないでおきましょう。
この本も、内容をほぼ忘れていました。
これまでに読み返している本のほとんどを覚えていないというのもすごいことだな、という気がしています。
もしかしたら、「姑獲鳥の夏」や「魍魎の匣」なども、そろそろ忘れているのかもしれません。
物忘れというのは、年齢を重ねた人間に対する天からのプレゼントのような気がします。
で、この本には霊感探偵神無月鏡太郎が登場します。
この神無月探偵、ある意図を持って榎木津礼二郎との対決を望みます。
そして様々な仕掛けに薔薇十字探偵社の一味を取り込んでいきます。
その一つ一つが戯画的で、楽しみながら読み進められます。
が、結局は唯一無二の「探偵」榎木津礼二郎によって粉砕されるのですが。
この本の最後もまた、心地よい、爽やかなカタルシスを感じさせてくれます。
本作の主人公が、榎木津の友人中禅寺秋彦から一通の手紙を手渡されます。
それは榎木津からの「招待状」のようです。
「ほら、あれは追儺をやるとか喚いていただろう。まあ去年の夏からこっち身の回りで随分な事件が相次いだからね。(中略)榎木津のような馬鹿はいいけれど、関口くんや君のような人間はまずやっていられないだろうと」
(中略)
「榎木津はね、あれはあれで、榎木津と云う面を被って暮らしているんですよ。何も被ってないように見えるし、本人もそう振る舞っているけれどーあれはそう云う面なんですよ」
(中略)
僕は封筒を見た。
書き殴ったような乱暴な字だ。裏面には榎木津礼二郎と記してある。どうやら直筆らしい。表には。
ー本島俊夫様。
そう書かれていた。初めて榎木津の声で本名を呼ばれたような、そんな気がした。でも、本名が却って偽名みたいに思えて、あの人らしくないですよねえと云い乍ら、僕は照れ隠しのためにー。
大いに笑った。
本名が書かれている部分、一連のシリーズを未読の方には、ちょっと説明が必要ですね。
探偵榎木津礼二郎は、人の名前を覚えない。
そして、勝手に名付けた名前で呼ぶのです。
それなのですが、この事件が収束したときには、「本名」で宛名を書いた手紙を書く。
ここに榎木津礼二郎の何かが見えた気がします。