根
冷たい風の吹く朝
遠い北の町を目指して
細い指で地層の境目に指を差し込む
狭い穴の中が
生ぬるい呼気で湿り
汗が土を固め
指先を押し返す
呻く口に、ざりざりとした土が入り
吐き出そうとして
最後の息を吐いてしまう
重い、窒息
と、爪が剥がれ
温かな血が流れ出し
硬い地層の層間を巡るように走る
気がつけば
足の指からも
口からも耳からも
無数の血の筋が出ていて
根のように
地中を這い回り
重く硬い地層を貫き
全方位に果てしなく展開し
不意に流動化する暗い地中で
身体をまるで中空に浮かぶように
ゆらゆらと、ゆらゆらと捧げ持つのだ
根の先端は
層間を走り続ける
西へ、東へ、南へ、そして北へ
…あの、北の町へ…
根の先端は、いつか指先の感覚を持っていて、層間を展開しながら、「私」は、間主観性の壁を乗り越える速度に近づき得ないことを知らされ、遠い過去の、呱々の声を再び上げるのだ
その先端は、不意に凍りつく北の浜辺に噴き上がり…
その先端は、雪に埋もれた沢の冷たい水辺に噴き上がり…
その先端は、あの暗い校舎の石炭部屋に噴き上がり…
…そして、あの、石とともに深く埋められた、暗い駅に突き当たるのだ…
根の先端は、そこで膨らみ
新たな根瘤が零れ落ちるように生まれ
「私」は、ここ、から、そこ、に、
瞬間に移動し
ストーブを囲むように並べられた
木のベンチに小さく座って
暗い改札口の先に
雪解けの頃の暖かな陽の射すのを
わずかな不安とともに待っているのだ
しかし、陽は射さず
列車も来ない
待合室は
どこからか流れ込む闇に沈み始め
足元が冷たい闇にずぶずぶに濡れ
身体が凍える頃
「私」はふと、泣いていたことを思い出し
暗い地層を震わせるのだ
風の強い朝
ほら、
泣いている
*****
詩の言葉で、少し「飛んで」みたくなったら、以下の詩人はちょっとオススメです。
ただし、ハマることもありますので、要注意です。
以下は暖淡堂の詩集です。
【現代詩】「根」 遠い北の駅の待合室と、
線路の上を季節の変わり目に吹き抜ける風のイメージ
現代詩の試み
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