この本は、二度買っている。
はじめはカッパノベルズ版。二度目がこの光文社文庫版である。
二度目は、思いがけず思い出に出会ったような心持ちがした。
主人公の吉敷竹史が、別れた妻通子からのメッセージに導かれるように、東北へ、さらに北へと向かう。道東に辿り着いた吉敷は奇妙な事件に遭遇し、同時に通子の窮状を知る。事件を解決し通子を窮状から救い出すため、吉敷は雪の降る中、北の大地で孤独な推理を続ける。
少しだけ、ハードボイルドの味がする。愛しい女のために、満身創痍で這いずり回る。そして、最後には自分の頭と身体とで真相に至る。
本格ミステリーの、極北。
***
カッパノベルズ版は何度も読み返した。そして、一人で道東に出かけたりもした。
自分は吉敷のように、一人の女性のために不条理な状況の中でも戦えるのだろうか。
そう自問し続けていた。
まだ大学院に通う学生だった。
なんの力もなかった。経済力が一番なかった。
それでも、誰かを幸福にするために生きるということの、価値はわかりかけていた気がする。
島田さんの作品は、今でも読み続けている。
作中の人物とともに成長していることを、なんとなく誇りのように感じている。
「北の夕鶴2/3の殺人」 島田荘司
ほんのわずかの寂しさとともに
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