安心感の研究 by 暖淡堂

穏やかに日々を送るための試みの記録

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子供の頃、よく水に落ちたこと 【沙河9】

 

よく水に落ちた


  

 

子供の頃は、よく水に落ちました。

いつも近くに誰かがいてくれて助かっています。

もし一人きりだったら、ダメだったかもしれないと思われることもあります。

  

水の中から明るい空を見上げていた記憶があります。

他の時の記憶と混じっているのかもしれませんが。

  

子供って、どうして水の近くで遊びたがるのでしょうね。

  

【沙河】昭和四〇年~昭和五〇年 (五)①

  

 家の前の道路脇に細い用水路があった。

 田植えの頃から夏にかけて、豊富な水が流れた。

 水は緩やかな勾配に沿って、南から北に向かって流れていた。

 私はその水に、千切り取った草や木の葉を流して遊んだ。

 玄関前から道路に出る部分は、コンクリート製の土管を埋めてトンネルを作り、そこを水が流れるようにしてあった。

 私はトンネルの入り口のところで木の葉を水に浮かべ、出口のところに走って行って、それが出てくるのを待った。

 木の葉が出てくると嬉しかった。木の葉に、小さくなった自分の分身が乗っているところを思い浮かべた。そして、トンネルの中で経験するだろう冒険を想像した。

 時々、どこかに引っかかるのだろう、木の葉が出てこないことがあった。

 ある時、私はトンネルの出口から中を覗き込んでみた。身体を前に屈め、頭を水面に近づけた。

 そして、私は水に落ちた。落ちる瞬間、トンネルの反対側が一瞬、とても明るく見えた。

 頭を下流側に向け、身体を伸ばした状態で、全身が水に沈んだ。用水路の縁は雑草が生い茂っており、流れる水の上に覆いかぶさっていた。

 おそらく私が水の中に横たわっているところは、周囲にいる人からは見えなかっただろう。

 私は水の中から、空を見上げていた。青い、歪んだ夏空だった。

 急いで駆け付けた祖母が私を水の中から引き揚げてくれた。姿は見えなかったが、水に落ちる音を聞いたようだ。たまたま祖母が近くにいたので助かった。

  

「沙河」(暖淡堂書房)から

 

   

子供の頃、よく水に落ちたこと 【沙河9】

 

またお立ち寄りください。

どうぞご贔屓に。

 

 

 

 

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