安心感の研究 by 暖淡堂

穏やかに日々を送るための試みの記録

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大きな夢が実現するまで 「天狗照る 将軍を超えた男 ー相場師・本間宗久」 秋山香乃

鳥海山を望む出羽の国庄内藩酒田の富商本間家新潟屋の五男伝次は、幼馴染の千沙の姿を街中で偶然見かけ後を追う。江戸に行く前に伝次の姿を見たかった千沙がそっと近づいていたのだった。そこで伝次は千沙が金で買われたことを知る。幼馴染の身の上に突然訪れた不幸に、伝次は驚く。千沙は伝次に抱いていた思いを告げる。伝次と千沙の前に、千沙を買った男佐助が現れ、伝次を雪解けの泥がぬかるむ地面に叩きつける。

「千両…お千沙ちゃんに…」

 驚きが、馬鹿正直に、伝次の顔に出た。

 女一人に出す金にしては、狂っているとしか言いようのない破格さだ。

「わかったろう。はした金で買い叩いた女じゃねえ。あの女には、俺が本当の男を教えてやる。お前は、安心して、忘れろ」

 完敗だった。

伝次は、佐助の造船所に連れていかれ、そこで佐助という男との挌の違いを思い知らされた。

伝次は江戸に出る機会を得る。そこで米相場に心を惹かれ、日々通って値の動きを見続ける。相場で出る利は、不幸な人々の犠牲の上に生まれているものでもあることを知り、悩む。すべての人が幸福になれるような方法はないものか。伝次は考え始める。そして、初めての取引で五〇両の利益を得る。そんな日々の中、伝次は佐助が飢饉の年に起こった打ちこわしに乗じて米相場で巨利を得たことを知る。千沙が買われた大金は、そこから出ていたのだ。

伝次は佐助が乱暴なだけの男ではないことを知り、次第に興味を持ち始める。再会した夜、伝次は打ちこわしとの関わりを尋ねる。

「俺が仕組んだとしたらどうなるのだ。打ちこわしが起こらなきゃあ、江戸の貧乏人はどうなっていた。今頃墓の中に入っているやつがごろごろいるぜ。だが、米が放出されたお陰で生き延びて、そこから生まれた命もまたあろう」

佐助を恨む者たちの襲撃を払いのける手助けをした伝次は、酒田に帰る。実家の新潟屋はやがて伝次の長兄庄五郎が主となった。伝次は庄五郎を助け、酒田の米相場からも得た金を使って、商いの規模を大きくした。その伝次の才覚を買い、庄五郎の後は伝次が主となるべきと言う者、庄五郎の息子の四郎三郎が継ぐべきと言う者との二派に分かれて対立するようになってしまった。伝次は、店を四郎三郎に継がせようと心に決めていた。自分自身は相場師として立ちたかったのだ。

佐助は酒田に戻り、造船や廻送業で利を上げていた。江戸で佐助を襲った者たちのうち、役人の捕縛を逃れた一人が酒田に流れ着き、佐助の命を狙う。瀕死の怪我を負った佐助は、駆けつけた千沙に自分の身の上を明かす。

「俺もなあ…昔、金で買われたことがあるんだぜ」

「えっ」

「家が貧しくてな、親が白い米を食いたくて、俺を売りやがった」

「あんた…」

「ごめんな。同じ目に…あわせちまって。辛かったな。…俺は、おめえの辛さを知ってたんだ。けど…ああする以外…どうやって手に入れたらいいか…わからなかった…」

佐助は一命をとりとめる。そして伝次の友となり、酒田で船大工の棟梁を続ける。

伝次の日の本一の相場師になる夢は膨らみ続けた。しかし身体の弱い庄五郎のかわりに店を支えなければならなかった。そしてついに庄五郎は亡くなってしまう。庄五郎の嫡男四郎三郎に商才があるか、主としての力があるか誰もわからない。店の中の対立が激しくなった。しかし、伝次の四郎三郎を見る目は揺らがなかった。店を背負って立つのに十分な能力がある。店を継ぐべきは四郎三郎だ。一方の四郎三郎も、叔父伝次の夢と、子供の頃にした約束を忘れていなかった。

四郎三郎が本間家三代目の襲名披露の日、四郎三郎は伝次との縁を切ると宣言した。それから、伝次に手向けの言葉を贈った。

「お前の手なぞ、猫の手以下じゃ、くそくらえ」

 兄たちや番頭らがあっけにとられる。

 伝次だけが、あっ、と息を呑む。

 四郎三郎は日の本一の商人に。

 伝次は日の本一の思惑師(相場師)に。

 その誓いを果たすための、これは二人だけの合言葉だ。

 瞠目した伝次の顔が、やがて泣き笑いになった。

四郎三郎、後の本間光丘は日本一の豪農商家本間家の中興の祖となった。伝次は本間宗久として相場の神様と呼ばれた。

本間宗久が相場分析のために編み出したローソク足による図解分析は、現在でも世界中の投資家の間で使われている。

 

天狗照る 将軍を超えた男 ー相場師・本間宗久

秋山香乃

 

最後までお読みいただきありがとうございます。

引き続きどうぞご贔屓に。

 

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