最近の葬儀は葬儀会場を使うことが多いですね。
昭和の頃の北海道の実家の辺りでは、自宅を使うか、お寺で行っていました。
普段行くことのないお寺の中を見ることができる貴重な機会でした。
本堂の仏像などを見ることができ、子供ながら、宗教というものがあるのだと、なんとなく感じることができていたと思います。
葬儀会場での葬儀は、誰もが参加できるセレモニーになっていますね。
お寺の中がどのようになっているのか、知らない人も増えているかもしれません。
それもまた時代の流れかもしれませんが。
【沙河】昭和五一年~昭和五二年 (十四)①
通夜はお寺で行われた。町に古くからある曹洞宗のお寺だった。
境内に背の高い木が植えられていた。枝や葉が強い風に吹かれて鳴っていた。時折大粒の雨が落ちたが、長続きはしなかった。
庫裡には、近所の人たちがたくさん集まっていた。
手分けをして食事の支度をしたり、祭壇の周りで作業をしたりしていた。黒飯を炊いたり、煮物を作ったりする匂いがしていた。
祖母に手招きされて、私と妹は祭壇に近づいた。
白い布に包まれた台の上に棺桶が置かれていて、その中に祖父が横たわっていた。祖父は目を閉じていた。
普段通りの寝顔のように見えたが、鼻の穴に詰められた脱脂綿が、鼻はもう生きるための役割は果たしていないことを知らせた。鬚が薄く伸びていた。
やがて、連絡を受けた遠くの親戚も到着し始めた。
私と妹は、親戚の子供たちと話をしたり、お寺の中を見て歩いたりした。木造の廊下は、きれいに磨かれていたが、古いためか歩くと所々で軋んだ。
天井の高い本堂に仏像があった。曇りの日の午後の、薄暗い本堂で、仏像の姿はさらに暗い影の中にあった。
夕方から雨が降り始めた。時折強い風も吹いた。
雨が屋根を打つ音が時折大きく聞こえていた。
寺の僧侶が三名、庫裡に作られた祭壇の前に座って、経を読み始めた。
家族で並んで一番前の列に座っていた。長い読経の途中で、焼香が始まった。初めてだったので、祖母や両親がするのをそのまま真似た。
「沙河」(暖淡堂書房)から
*☺☺☺☺☺*
通夜の頃から、天候が荒れ始めていました。
僕や妹は、他の親戚たちと一緒に、雨の音を聞きながら不安な夜を過ごしていました。
お寺でのお通夜 台風が接近して天候が悪化したこと
【沙河28】
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