渇いた眼球
…「個々」の「私」達からこぼれ落ち続ける無数の虫達は膨らむ球形の熱いコロニーとなり、ここ、ではない層を探りながら浮遊する。やがてコロニーは自重で縮壊し「私」達のネットワーク(それは周縁部の最も野性的な部分を発散するものとして含む、ずれつづける平面達の影)に重なる層を無限に加速しながら、「底」、の弱い部分を逃げ始める…
寝台の
片足の少年は
天井を
這い回る小さな虫に目をとめる
小さなくぼみのような
暗い
影
…いくつも並んだ寝台の上の盛り上がりが、どれも動かないこと確かめるざわつく虫達…
その影のそばに
小さな妹の顔が浮かんで揺れる
あの日
自分と同じ大きさ
同じ色の
水たまりに頭を浸け
小さな腰を持ち上げたまま
霜に
覆われた
…虫達の粘液状の糞はどの都市の建築群の地下をも流れ、微かな響きをたてる。その流れと同じだけの、子供の凍結…
苛立つ小さな身動きに
母の微かなにおいが首筋から漏れ
身体の奥が無理に押し広げられ
涙が溢れ
できた空洞を
黒い獣の尾でなぞる
…不意の滑落…緩やかに流れ始めるいくつもの薄層…寝台の湿った温もりに苛立ち…逃走、荒野で速度を増し…跳ね、何度も転げ…静止する星空を見上げ…雪の匂…妹の横たわるあの草むらへ…差し伸べる指の先に何本もの枯れ枝を接ぎ…飲み込んだ声…
(…と、岩陰の息遣い
(…生臭く、小さく笑うような
天井で
虫が動く
少年は目を開いたまま、息を止める
そして
その奥/ここ、に向かって
ざらざらとした指で胸を裂きひろげながら
ゆっくりと滑り込み始める
と、空間に、凝り、落ちる、
いくつもの、
渇いた
眼球
(…個々の「私」達…)
(…穢す、目よ…)
*
見なれない男達が不意に溢れた
石の街で
灰色のブルカの若い女は
わずかの金を求めて
渇いた小さな子供を道端に置いた時
小石の陰から顔をだす
濡れたゴムのような
蛇を見た
その
赤い舌
【現代詩】「渇いた眼球」
力の限り見つめ続ける者たちのイメージ 現代詩の試み
目をそらさないこと。
大事なものを見つめ続けること。
自分の外にあるものに、自分を広げ続けること。
それが自分を不安定にさせたとしても。
またお立ち寄りください。
どうぞご贔屓に。
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