前回の記事で、書の著作物性についての裁判所の判断を紹介しました。
その裁判で争われたのは、実は書の著作物性についてではなく、書画の写真への写り込みが著作権侵害になるかどうか、でした。
ブログやその他SNSで投稿しているみなさんは、気になる問題ですよね。
前回の裁判例をもう少し詳しく読んでみたいと思います。
(ここに前回の記事)
事件の概要
ある書家が書いた「雪月花」、「吉祥」、「遊」という作品が、照明器具の広告宣伝用の写真に写り込んでいました。書家の親族が、作品がパンフレットに写り込んでいるのは著作権侵害であるとして、パンフレットを作成、発行した業者を訴えました。
この訴えに対する裁判所の判断は、著作権侵害には当たらない、というものでした。
裁判の争点を簡単にまとめると
この裁判の主な争点は、写真に写り込んだ作品は、作品の複製物か、というものでした。
本ブログで以前紹介したように、作品を複製する権利(Copyright)が著作権の根幹です。作品をそのまま複製することを独占的に有することを著作権といいます。他人が勝手に複製してはいけません。
しかし、この事件では、パンフレットへの写り込みは複製ではないと判断されています。その理由はどのようなものだったでしょうか。
判決
「〜限定された範囲での再現しかされていない本 件各カタログ中の本件各作品部分を一般人が通常の注意力をもって見た場合に、こ れを通じて、本件各作品が本来有していると考えられる線の美しさと微妙さ、運筆 の緩急と抑揚、墨色の冴えと変化、筆の勢いといった美的要素を直接感得すること は困難であるといわざるを得ない。
(中略)したがって、本件各カタログ中の本件各作品部分において、本件各作品 の書の著作物としての本質的な特徴、すなわち思想、感情の創作的な表現部分が再 現されているということはできず、本件各カタログに本件各作品が写された写真を 掲載した被控訴人らの行為が、本件各作品の複製に当たるとはいえないというべき である。」
パンフレットの写真中の作品は、本物よりもかなり小さく写されていて、筆遣いなども明瞭にわかるものではありませんでした。そのような写り込みは複製には当たらない、ということです。
複製に当たる場合
この判決から、さらに理解できることがあります。写真撮影が複製に当たると判断される場合がありうるということですね。
つまり、作品の美的要素を直接感得できるような写真は複製と考えられます。
著作権者との権利関係の調整が必要になります。
*
写真への写り込みによる著作物の利用を違法としない方向で法改正が行われています。
この点、改めて紹介する予定です。
写真に書画が写り込んだら、著作権侵害?
裁判記録は、多くが公開されています。ご関心のある方、以下のリンクから裁判所のHPを訪問してみてください。
またお立ち寄りください。
どうぞご贔屓に。
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