地方の小都市に大型ショッピングセンターが進出する。
昔からあった商店街の客足が途絶える。
しばらくすると、ショッピングセンターの売り上げが伸びなくなり撤退。
後にはショッピングセンターの廃墟と活気を失った街が残る。
この作品の背後に、このような状況が描かれる。
地方都市に住めば、実感を持って読み続けられるだろう。
「彼らは言葉巧みに地方に進出する。遊休地から固定資産税が徴収できる、地元の雇用を確保できると地方の有力者を誘惑する。いざ大型商業施設ができれば、地元商店街から客を根こそぎ奪う。しかし、儲からなくなった途端、別の土地を探すんだ」
警視庁捜査一課継続捜査班の田川は中野で発生した事件の再捜査を指示される。
田川は地道な鑑どりを進め、事件の真相に迫った。
すべてを解明した田川は、しかし巨大組織を前に立ち止まらざるをえなくなる。
そして、上司に後をまかせ、取調室から立ち去る。
田川は、協力して捜査に当たった若手の同僚の池本と、地元の商店街にある肉屋の前でこんな話をする。
「なぁ池」
「なんすか?」
「日本はこういう人との触れ合いを忘れてしまったんじゃないのかな?」
「そうですね。車で出かけて、スーパーやコンビニの買い物カゴに商品を突っ込んで、レジで事務的にカネ払って終わりですもんね」
「大きな商業施設に行って、豊かになったつもりでいたんだ。現実は、企業にいいようにカネを吸い取られて、演出された幻想を見せられていたんだ。この商店街みたいに、身の丈で暮らせるのが一番だと思わんか?」
田川は自らに言い聞かせるように呟いた。
豊かになることと、豊かになった気になることとは異なる。
大型ショッピングセンターはつかの間、私たちを豊かになった気にさせてくれる。
商店街で買っていたものよりも、おしゃれで、それに安価である。
地方にいても、東京の人が買い物をするチェーン店で買い物ができる。
有名タレントが起用されたCMで見たものと同じものが手に入るのだ。
しかし、その夢は、私たちがそこでお金を使い続けている間だけ見られるもの。
大型ショッピングセンターは、収益が上がらなくなれば、去って行くのだ。
大型ショッピングセンターの事業は焼き畑農業に喩えられている。
地味の豊かだった土地を焼き尽くされ、枯木もなくなってしまったような土地に、置き去りにされてしまうのではないか。
大型ショッピングセンターが去った後のことを想像すると、心寒くなる。
震える牛 相場英雄
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